第3章黒字リストラと赤字リストラの違い|会社の出方と交渉の余地
この章の要点
- 近年の上場企業の希望退職募集は、黒字企業が6割台、募集人数では7割台を占めています(東京商工リサーチ、2025年1〜9月)。
- 黒字リストラは「事業の組み替え」が目的で、割増退職金などの条件を厚くして希望退職を募る形が中心になりやすい、とされます。赤字リストラは会社に余力がなく、条件が薄くなったり、最後は整理解雇に進んだりすることがあります。
- 黒字の会社は、整理解雇の条件の一つ「人員削減の必要性」を満たしにくい立場です。そのため退職勧奨を断る余地は、一般に黒字のほうが大きいと考えられます。
数字で見る「黒字リストラ」
東京商工リサーチによると、2025年1〜9月に早期・希望退職の募集が分かった上場企業は34社、募集人数は1万488人でした。このうち直近の決算が黒字だったのは22社(64.7%)で、黒字企業の募集人数は8,018人と全体の76.4%を占めました。
同社の2025年度(2025年4月〜2026年3月)の集計では46社・2万781人で、前年度の約2.5倍になりました。黒字企業は32社(69.5%)、黒字企業の募集人数は1万6,908人で全体の81.3%です。
つまり「会社が儲かっているから自分は大丈夫」とは言えない、というのが近年の特徴です。
黒字リストラと赤字リストラの比較
| 黒字リストラ | 赤字リストラ | |
|---|---|---|
| 目的 | 事業の組み替え、年齢構成の見直し、成長分野への人の入れ替え | 固定費を減らして会社を立て直す、生き残る |
| よくある形 | 期間と人数を区切った希望退職の募集、対象年齢の指定(例:50代以上) | 希望退職の募集に加え、退職勧奨の強化、最後は整理解雇 |
| 割増退職金・再就職支援 | 手厚くなりやすい | 薄くなる、または払えないこともある |
| 会社の急ぎ方 | 募集期間が決まっていて、その中で決断を迫られやすい | 資金繰りによっては急を要する |
| 断ったあと | 配置転換や役割の変更が起きることがある(第14章) | 会社の状況が悪化すれば、残っても次の削減の対象になりうる |
表の「よくある形」以下は、指南記事や報道で一般に言われている傾向です。会社ごとに違います。
交渉の余地はどう違うか
経営不振を理由にした解雇(整理解雇)では、裁判例で①人員削減の必要性、②解雇を避ける努力、③人選の合理性、④労働者側との十分な協議、が重視されます。
黒字の会社が整理解雇まで進むには、①の必要性をどう示すかが問題になります。このため黒字リストラの多くは、解雇ではなく「希望退職の募集」や「退職勧奨」という、社員の同意を得る形をとります。同意が前提である以上、応じない選択肢は残ります。一方で、応じる場合の条件(割増退職金、有休の買い取り、退職日、再就職支援)について、交渉の余地があるかを確かめる価値もあります(第9章)。
赤字の会社では、①の必要性は認められやすくなります。ただし②〜④を欠く解雇は、赤字でも無効とされることがあります。どちらの場合も、有効かどうかは個別の事情によって判断が分かれます。
自分の会社がどちらかを見分ける
- 上場企業:決算短信・有価証券報告書で、直近の最終損益と今後の見通しを確かめます。希望退職の募集は、適時開示で発表されることがあります。
- 非上場企業:会社が公表している決算、社内の説明資料、取引先の動向などから推し量ります。
- 発表の言葉:「構造改革」「事業ポートフォリオの見直し」「成長分野へのシフト」は黒字リストラで、「収益改善」「固定費削減」は赤字リストラで使われやすい言葉です。
失業給付での扱いの注意
会社が人員削減のために行う希望退職の募集に応じた場合と、以前から常に設けられている早期退職優遇制度に応募した場合とで、失業給付での扱いが分かれます。前者は特定受給資格者(いわゆる会社都合)になりうる一方、後者は該当しないとハローワークの基準に書かれています。自分の募集がどちらに当たるかは、会社の説明資料で確かめ、分からなければハローワークに聞きます(第11章)。
相談先
- 総合労働相談コーナー(都道府県労働局・労働基準監督署)
- 労働組合(社内の組合、または一人でも入れる地域の合同労組)
この章で記録しておくこと
- 会社の直近の決算(最終損益)と、それを確かめた資料・日付
- 希望退職の募集要項(対象年齢、募集期間、人数、割増退職金、再就職支援の有無)の写し
- 会社の説明会での説明内容(日時、説明者、配られた資料)
この章のチェックリスト
- 自分の会社の直近の最終損益を確かめた
- 募集要項を手元に保存した
- 募集が「人員削減のための募集」か「常設の制度」かを確かめた
- 説明会の日時と説明内容を記録した
- 応じない選択肢もあることを理解した
事実の確認表
| 主張 | 出典 | 確認日 |
|---|---|---|
| 2025年1〜9月:34社・1万488人、黒字22社(64.7%)、黒字企業の募集8,018人(76.4%) | 東京商工リサーチ TSRデータインサイト(2025-10-14公開)https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201906_1527.html | 2026-09-30 |
| 2025年度:46社・2万781人、黒字32社(69.5%)、黒字企業の募集1万6,908人(81.3%) | 東京商工リサーチ TSRデータインサイト(2026-04-30公開)https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202787_1527.html | 2026-09-30 |
| 整理解雇で重視される4つの要素 | 兵庫労働局「解雇・退職」https://jsite.mhlw.go.jp/hyogo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/kaiko_taishoku.html | 2026-09-30 |
| 常設の早期退職優遇制度への応募は特定受給資格者に該当しない | ハローワーク「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html | 2026-09-30 |
| 黒字リストラは条件が厚く、交渉の余地が大きい傾向 | 指南記事・報道の一般的な見方 | 2026-09-30 |
参考にした記事
- Web担当者Forum「黒字なのにリストラ? 上場企業の『早期・希望退職募集』が2.5倍に急増」https://webtan.impress.co.jp/n/2026/05/12/52595(黒字リストラの増加)
- nippon.com「Japan Data」https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02419/(希望退職募集の推移)
- プレジデントオンライン https://president.jp/articles/-/115094(黒字リストラの背景)
- 弁護士ナビ「整理解雇とは? 不当解雇になる場合は?」https://www.ben54.jp/column/labor/699(整理解雇の4要件)