第14章退職勧奨を断って残ったら|配置転換・降格・追い出し部屋への備え
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この章の要点
- 残る道も茨の道です。配置転換、降格・減給、仕事を与えられない、繰り返しの面談などが起こりえます。
- 能力とかけ離れた程度の低い仕事しか与えない(過小な要求)、人間関係から切り離すといった扱いは、厚生労働省が示すパワーハラスメントの典型例に含まれます。
- 残るなら、「ここを越えたら辞める」という撤退ラインを先に決め、残りながら転職の準備も進めておきます。
残った後に起こりうること
退職勧奨を断ったあと、次のようなことが起こる例が、指南記事や報道でよく挙げられています。
- 別の部署・勤務地への配置転換、遠方への転勤(単身赴任を含む)、関連会社への出向
- 役職を外される、等級や給与が下がる
- 評価が下がり、賞与が減る
- 仕事がほとんど与えられない、専用の部屋や席に集められる(いわゆる「追い出し部屋」)
- 退職勧奨の面談が続く
会社には人事権があり、配置転換や評価そのものが直ちに違法になるわけではありません。問題になるのは、それが退職に追い込む目的だったり、必要な範囲を超えていたりする場合です。
どこから違法になりうるか
配置転換・出向
配置転換は、業務上の必要性がない場合、不当な目的(退職に追い込むなど)がある場合、本人に通常我慢すべき程度を著しく超える不利益がある場合には、権利の濫用として無効になりうる、と一般に解説されています。
遠方への転勤
残ると決めても、遠方の事業所や関連会社への転勤を命じられることがあります。退職勧奨を断った後に起こる例として、よく紹介されています。
- 就業規則と雇用契約を確かめる:転勤があると定めた就業規則があり、勤務地を限定する約束(勤務地限定の雇用契約など)がない場合、会社の転勤命令は原則として有効とされやすい、と解説されています。勤務地を限定する合意があれば、それを超える転勤は拒める余地があります。
- 家族の事情への配慮:育児・介護休業法は、転勤によって子育てや家族の介護が難しくなる社員がいる場合、会社にその状況への配慮を求めています。ただし、転勤させないことまでを義務づけるものではない、とされています。子育てや介護の事情は、書面で具体的に会社に伝えておきます。
- 命令が無効になりうる場合:業務上の必要がない、退職に追い込む目的がある、本人に通常我慢すべき程度を著しく超える不利益がある、といった場合です(上の「配置転換・出向」を参照)。
- 拒んだ場合:正当な理由なく拒むと、懲戒の対象になることがあります。拒む前に相談先で確かめます。
- 受ける場合に確かめること:単身赴任になるか、住宅・帰省旅費の手当、赴任の期間の見込み、家族の住まいと子どもの学校、親の介護の手配。二重生活の費用は家計に大きく響きます(第11章)。
遠方への転勤が撤退ラインにあたるかどうかも、先に考えておきます(下の「撤退ラインを先に決める」)。
降格・減給
就業規則や賃金規程に根拠がない降格・減給や、合理的な理由のない大幅な減給は、無効とされることがあります。規程の中身を確かめます。
パワーハラスメント
厚生労働省は、職場のパワーハラスメントを、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③労働者の就業環境を害するもの、と定義しています。その典型例として、精神的な攻撃、身体的な攻撃、過大な要求、過小な要求(能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事しか与えない、仕事を与えない)、人間関係からの切り離し、個の侵害、の6つを挙げています。
会社には、パワーハラスメントを防ぐための措置(方針の周知、相談窓口の設置、起きたときの適切な対応)が法律で義務づけられています。大企業は2020年6月、中小企業は2022年4月から義務になりました。
繰り返しの退職勧奨
断っているのに執拗に続く勧奨は、違法な退職強要とされることがあります(第9章)。
どの場合も、違法かどうかは個別の事情で判断が分かれます。
心身を守る
- 記録を続ける:配置転換の辞令、仕事の内容の変化、面談の内容を、日付入りで残します(第7章)。
- 一人で抱えない:家族、信頼できる同僚、社外の相談先に話します。
- 体調の変化に気づく:眠れない、食欲がない、朝起きられないなどが続く場合は、医療機関を受診します。働く人のメンタルヘルスについては、厚生労働省の「こころの耳」に相談窓口がまとめられています。
- 社内の相談窓口:パワーハラスメントの相談窓口は、会社に設置が義務づけられています。
残りながら転職の準備を進める
残ることを選んでも、外の選択肢を持っておくと、心の余裕が変わります。
撤退ラインを先に決める
残る前に、「これが起きたら辞める準備に入る」という線を、具体的に書いておきます。例:
- 遠方への転勤を命じられたら(家族と離れて暮らせるか)
- 月給が今より○%以上下がったら
- 仕事がほとんどない状態が○か月続いたら
- 眠れない日が○週間続いたら
- 退職勧奨の条件が今回より悪くなる前(次の募集が発表されたら)
線は人によって違います。大事なのは、状況が悪くなってから考えるのではなく、冷静なうちに決めておくことです。撤退ラインを越えたら、段階C(支援を使う)に進みます。
相談先
- 社内のハラスメント相談窓口
- 総合労働相談コーナー(都道府県労働局・労働基準監督署):相談、助言・指導、あっせんが無料で使えます
- 法テラス、弁護士
- 労働組合(社内の組合、または一人でも入れる地域の合同労組)
この章で記録しておくこと
- 配置転換・出向・降格・減給の辞令と、受け取った日
- 与えられた仕事の内容の変化(日ごと・週ごと)
- 面談や言動の記録
- 体調の変化と、受診した日
- 決めた撤退ラインと、決めた日付
この章のチェックリスト
- 残った後に起こりうることを家族と共有した
- 就業規則・賃金規程で降格・減給の根拠を確かめた
- 社内外の相談先を控えた
- 職務経歴書の準備を始めた
- 撤退ラインを書き出し、日付を入れた
- 仕事の内容と体調の変化を記録している
- 就業規則の転勤の定めと、勤務地を限定する約束の有無を確かめた
- 子育て・介護の事情を会社に書面で伝えた(該当する場合)
事実の確認表
| 主張 | 出典 | 確認日 |
|---|---|---|
| パワハラの定義(3要素)と6類型(過小な要求、人間関係からの切り離しを含む) | 厚生労働省 長野労働局「職場におけるパワーハラスメント防止のために」https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/content/contents/powerharassment-boushi20240806.pdf /京都府 https://www.pref.kyoto.jp/kyoroi/harasumento.html | 2026-09-30 |
| 防止措置の義務:大企業2020年6月、中小企業2022年4月 | 同上 | 2026-09-30 |
| 配置転換が権利の濫用で無効となりうる3つの場合 | 判例に基づく解説が一致(判決原文は未確認) | 2026-09-30 |
| 根拠のない降格・減給は無効とされることがある | 弁護士の解説記事の一般的な見方 | 2026-09-30 |
| 残った後に起こりうる扱いの例 | 指南記事・報道 | 2026-09-30 |
| 育児・介護休業法26条:転勤で子の養育・家族の介護が困難になる労働者の状況に配慮する義務(転勤させないことまでは求めない、との施行通達) | 労務ドットコム https://roumu.com/archives/51463241.html /BUSINESS LAWYERS https://www.businesslawyers.jp/practices/569(条文・通達の引用。e-Govの条文は本章では未確認) | 2026-09-30 |
| 就業規則に転勤の定めがあり勤務地限定の合意がなければ転勤命令は原則有効とされやすい | 契約ウォッチ「転勤命令」https://keiyaku-watch.jp/media/kisochishiki/tenkin/ ほか解説記事の一致 | 2026-09-30 |
参考にした記事
- SmartHR Mag.「パワハラとは」https://mag.smarthr.jp/hr/trouble/power-harassment/(6類型の解説)
- BUSINESS LAWYERS「パワハラ防止法」https://www.businesslawyers.jp/articles/1249(防止措置の義務)
- 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/853553(残った社員の処遇をめぐる報道)