第4章会社がリストラする理由|金利上昇・AI・社会保険料の負担
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この章の要点
- 会社がリストラする背景には、業績の悪化だけでなく、金利の上昇、AIなどによる仕事の変化、社会保険料を含む人件費の重さといった、会社の外の変化もあります。
- 日本銀行は2026年9月、政策金利を1.25%程度に引き上げました。借入の多い会社ほど利払いが増え、固定費を見直す理由になりえます。
- 理由が分かると、会社がどの部署・年齢層・仕事を減らしたいのかが読みやすくなり、面談での受け止め方や、残るか辞めるかの判断材料になります。
理由1:金利が上がっている
日本銀行は、2026年6月に政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標)を0.75%程度から1.0%程度へ、9月には1.25%程度へ引き上げました。
金利が上がると、会社には次のような影響が出ます。
- 借入の利払いが増える:借入の多い会社ほど、利益が圧迫されます。
- 投資の判断が厳しくなる:お金を借りて新しい事業や設備に投資するハードルが上がり、採算の低い事業を整理する動きにつながることがあります。
- 不動産・設備の多い業種への影響:借入に頼る業種ほど影響を受けやすいとされます。
金利の上昇が直ちにリストラにつながるわけではありません。ただ、固定費である人件費を見直すきっかけの一つになりうる、というのがよく指摘される点です。
理由2:AIなどで仕事の中身が変わる
生成AIなどの広がりで、事務、文書作成、問い合わせ対応、プログラミングなどの仕事の進め方が変わりつつあります。
厚生労働省の2025年版労働経済白書は、AIなどへの投資で事務的な業務を軽くし、労働生産性を上げる必要性を強調しています。一方で、AIによって雇用が大幅に減っているという裏付けは現時点では得られていないとし、海外ではソフトウェア開発やカスタマーサービスなどで雇用が減った例と、新しい事業で雇用が生まれた例の両方がある、と整理しています。
会社の側から見ると、次のような動きにつながる例がよく紹介されています。
- 定型的な事務や管理の仕事を減らし、人を別の仕事に移す、または減らす
- AIを使いこなせる人材の採用を増やし、年齢構成を入れ替える
- 「成長分野へのシフト」を理由にした希望退職の募集(第3章)
自分の仕事がAIでどう変わりうるかを考えることは、残る場合にも、転職する場合にも役に立ちます(第22章)。
理由3:社会保険料を含む人件費が重い
会社は、給与に加えて社会保険料の半分を負担しています。
- 厚生年金保険料:保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担します(2017年9月から固定)。
- 健康保険料:協会けんぽの場合、保険料率は都道府県ごとに決まり、会社と本人が半分ずつ負担します。
- 介護保険料:40〜64歳の社員の分は、会社と本人が半分ずつ負担します。
- ほかに、雇用保険料、労災保険料(全額会社負担)、子ども・子育て拠出金なども会社が負担します。
このため、会社にとって社員1人にかかる費用は、給与の額面より多くなります。給与の高い中高年の社員ほど、会社から見た人件費は大きくなる、という点が、中高年を対象にした希望退職の背景としてよく挙げられます。
経済から考える:なぜ中高年が対象になりやすいのか
会社の側の損得を、経済の考え方から見ると、中高年が対象になりやすい理由が見えてきます。
年功型の賃金カーブ
日本の会社の多くは、年齢や勤続年数とともに賃金が上がる仕組みです。厚生労働省の2024年の調査では、男性の賃金は55〜59歳で月44.4万円とピークになり、20〜24歳の約1.9倍でした(女性は45〜49歳の月29.8万円がピーク)。
「後払い」という考え方
経済学には、若いうちは仕事の貢献より低めに払い、中高年になってから貢献より高めに払うことで、長く勤めてもらう仕組みだ、とする説明があります(賃金の「後払い」説)。この見方に立つと、会社が長期雇用を約束しにくくなったとき、貢献より賃金が高くなりやすい中高年が、人件費を減らす対象として真っ先に挙がりやすいことになります。ただし、これは一つの説明のしかたで、すべての会社や人に当てはまるわけではありません。
会社全体の損得
- 固定費としての人件費:売上が伸びない中で、人件費は簡単には減らせない固定費です。社会保険料の会社負担も含めると、1人あたりの費用は給与の額面より大きくなります(上の「理由3」)。
- 将来の費用も見られる:定年延長や再雇用で、65歳まで(努力義務では70歳まで)の費用も見込む必要があります(第15章)。
- 割増退職金は一時の費用:一度に大きな費用がかかっても、数年分の人件費が減れば、会社にとっては元が取れる計算になりやすい、と説明されます。黒字の会社が厚い条件を出せるのはこのためです(第6章)。
自分に置き換えると
会社から見て、自分の賃金に見合う貢献が見えているかが問われます。貢献していても、それが周りや上司に見えていなければ、数字の上では「賃金が高い人」としか映りません(第5章)。
ほかによく挙げられる理由
指南記事や報道、会社の発表でよく挙げられる理由を、分類して並べます。実際には、いくつかが重なっていることがほとんどです。
株主・資本市場からの要求
- 資本効率の改善:東京証券取引所は2023年3月、プライム市場とスタンダード市場のすべての上場会社に、資本コストや株価を意識した経営を求める要請を出しました。株価が純資産を下回る(PBR1倍割れ)会社などで、採算の低い事業の見直しを進める動きにつながった、とよく言われます。要請では、事業の見直しと並んで、研究開発や人への投資も期待されています。
- 株主からの提案・圧力:いわゆる「物言う株主」から、不採算事業の売却や経費の削減を求められる例があります。
- 買収・ファンドの傘下入り:投資ファンドに買収された会社で、企業価値を高めるための経費削減や事業の整理が進む例があります。
事業と組織の組み替え
- 事業の組み替え:採算の低い事業からの撤退、成長分野への人の移し替え(黒字リストラの典型、第3章)
- 合併・経営統合の後の重複の整理:本社部門・管理部門・拠点が重なり、人員を減らす例があります。
- 事業の売却・分社化:売却される事業の社員に、移籍か退職かの選択が示される例があります。
- 生産・拠点の再編:工場や営業所の閉鎖・統合、海外への生産移管。勤務地が変わる形で人員が調整されることもあります(第14章)。
- 業務の外部委託・デジタル化:経理・人事・総務などの定型業務を外部に委託したり、システムやAIに置き換えたりする(上の「理由2」)。
人の構成と人件費
- 年齢構成の見直し:中高年の社員が多い会社で、若手の採用や登用の余地を作る
- 管理職のポスト不足:人数の多い世代が50代に達し、役職の数に対して人が余る
- 若手の賃上げの原資:初任給や若手の賃金を上げるために、人件費の総額を組み替える例がある、と報じられています。
- 定年延長・再雇用の負担:65歳までの雇用確保の義務があるなかで、人件費の総額を抑える(第15章)
- 人事制度の見直し:年功型から職務型(ジョブ型)・成果型への移行に合わせて、役割と処遇を見直す
外部の環境
- 業績の悪化・市場の縮小:赤字リストラの典型。人口減少で国内市場が縮む業種もあります。
- 原材料・エネルギーの価格や為替:費用が上がり、利益が圧迫される
- 技術や規制の変化:主力の製品やサービスが、新しい技術や規制の変更で売れなくなる(例として、自動車の電動化に伴う部品の変化がよく挙げられます)
どの理由が当てはまるかは、会社の発表(中期経営計画、決算説明資料、適時開示)で確かめられることが多いです。「なぜ今、自分の会社が」を知ることで、どの部署や年齢層が対象になりやすいかが見えてきます。
理由を知ってどう使うか
- 会社の説明と照らし合わせる:説明会や面談で会社が挙げる理由と、ここで挙げた外の変化を照らし合わせると、会社がどの仕事・どの年齢層を減らしたいのかが見えてきます。
- 自分の立ち位置を考える:自分の仕事が、会社が縮めたい分野か、伸ばしたい分野か。
- 交渉と判断の材料にする:会社に余力がある(黒字)なら条件の交渉の余地があり、会社の事業そのものが縮んでいるなら、残っても次の削減の対象になりうる、といった見通しにつながります(第14章)。
相談先
- 総合労働相談コーナー(都道府県労働局・労働基準監督署)
- 労働組合(会社の説明の中身を確かめる)
この章で記録しておくこと
- 会社が説明したリストラの理由(日時・説明者・資料)
- 自分の会社の借入・業績・事業の動き(決算資料などで確かめた日付)
- 自分の仕事が、会社の縮める分野か伸ばす分野かの見立て
この章のチェックリスト
- 会社が説明したリストラの理由を記録した
- 自分の会社の業績と事業の方向を決算資料などで確かめた
- 自分の仕事がAIなどでどう変わりうるか書き出した
- 会社から見た自分の人件費(給与+社会保険料の会社負担)をおおまかに把握した
- 理由を踏まえて、残る・辞めるの見通しを書いた
事実の確認表
| 主張 | 出典 | 確認日 |
|---|---|---|
| 日銀は2026年6月に政策金利を0.75%程度→1.0%程度、9月17・18日の会合で1.25%程度へ引き上げ | 大和総研「日銀、利上げを決定」(2026-09-18)https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20260918_026078.html /マネックス https://media.monex.co.jp/articles/-/29863(日本銀行の公表文は本章では未確認) | 2026-09-30 |
| 2025年版労働経済白書:AIで事務的業務を軽減し生産性向上を、AIによる雇用の大幅減少の裏付けはない、創出と喪失の両方の例 | 同白書の報道(OANDA マーケットニュース)https://www.oanda.jp/lab-education/market_news/kn_2025093001000627/(白書本文は本章では未確認) | 2026-09-30 |
| 厚生年金保険料率18.3%(2017年9月から固定)、労使折半 | 協会けんぽ 保険料率の案内 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/osaka/public_relations/013 ほか | 2026-09-30 |
| 健康保険料・介護保険料は労使折半、協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごと | 同上 | 2026-09-30 |
| 東証が2023年3月31日、プライム・スタンダードの全上場会社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請(2026年4月28日に要請を更新) | 日本取引所グループ https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html / https://www.jpx.co.jp/news/1020/20260428-01.html | 2026-09-30 |
| ほかの理由の分類(物言う株主、ファンド、統合、拠点再編、ポスト不足、若手賃上げの原資など) | 報道・指南記事でよく挙げられる例(統計の裏付けはない) | 2026-09-30 |
| 男性の賃金は55〜59歳で444.1千円がピーク(20〜24歳=100で189.6)、女性は45〜49歳298.0千円がピーク(2024年) | 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」性別にみた賃金 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/dl/02.pdf(原本を読んで確認) | 2026-09-30 |
| 賃金の「後払い」説 | 労働経済学で知られる説明の一つとして紹介(特定の文献の数字は使っていない) | 2026-09-30 |
参考にした記事
- 大和総研 経済レポート https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20260918_026078.html(2026年9月の利上げ)
- 日本経済研究センター https://www.jcer.or.jp/?p=122929(金利の見通し)
- 労働政策研究・研修機構「ILO:AIと雇用」https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2025/07/ilo_02.html(AIが雇用に与える影響の国際的な分析)
- 総務省 情報通信白書「AIの利用が経済や雇用に与える影響」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd113230.html